海外との取引を目的として酒類を仕入れ・販売したい場合には、「輸出酒類卸売業免許」または「輸入酒類卸売業免許」が基本となります。本記事では、これらの免許の概要・取得要件・申請手順・注意点を、輸出入ビジネスを始めたい方向けに解説します。
1. 輸出入酒類卸売業免許の概要と位置づけ
輸出入酒類卸売業免許は、海外との酒類取引を行うために必要な免許で、酒税法に基づいて国税局が許可します。「輸出」と「輸入」はそれぞれ別の免許として扱われ、事業内容に応じて個別に申請が必要です。
日本酒や焼酎などを海外へ販路拡大したい事業者、あるいは海外からワインや蒸留酒などを国内に流通させたい事業者にとって、この免許は国際取引の出発点となる重要な許可といえます。
1.1 この免許でできること・できないこと
「輸出酒類卸売業免許」を取得すると、日本国内で仕入れた酒類を海外の取引先に販売(輸出)することができます。一方、「輸入酒類卸売業免許」を取得すると、海外から輸入した酒類を国内の卸売業者や小売業者に販売できます。いずれも国際的な酒類流通を前提とする免許です。
なお、「輸入酒類卸売業免許」を取得しても、輸入した酒類を一般の消費者に直接販売することはできません。販売先はあくまで事業者(卸・小売業者)に限られます。また、「輸出酒類卸売業免許」は国内向け販売を対象としておらず、取引先は海外の事業者に限定されます。
さらに、これらの免許には扱える酒類の種類や範囲が明確に指定されます。例えば、ワインのみを対象として申請した場合は、ビールやウイスキーなど他の酒類を取り扱うことはできません。扱う酒類を追加・変更したい場合は、免許の変更届を税務署に提出する必要があります。
1.2 他の酒販免許との関係性
輸出酒類卸売業免許・輸入酒類卸売業免許はいずれも特定の取引形態に特化した免許であり、国内の一般消費者向けに販売を行う場合には「一般酒類小売業免許」または「通信販売酒類小売業免許」といった他の酒販免許と併用する必要があります。
このように、輸出入関連免許だけでは事業の範囲が限定されるため、自社の販売チャネルや事業計画に合わせて免許を組み合わせることが重要です。
2. 取得に必要な要件
輸出入酒類卸売業免許を得るためには、以下のような要件を満たす必要があります。大きく分けて人的・場所的・経営基礎・需給調整の4要件です。
2.1 人的要件
人的要件は主に下記の内容がチェックされます。(大まかなポイントだけを記載しています)
- 過去に酒販免許や製造免許の取消処分を受けていないか(一定期間内)
- 国税・地方税の滞納がないか
- 国税又は地方税に関する法令等に違反して罰金刑を受けていないか(一定期間内)
- 法人の場合は、役員全員が基準を満たしているか
つまり「酒類に関する法令違反歴がないこと」「税金をきちんと納めていること」「会社の経営陣も含めて健全であること」が基本的にチェックされます。
2.2 場所的要件
場所的要件では、申請する販売場や事務所・倉庫が実在し、酒類の輸出入取引に適した環境かどうかが確認されます。代表的なポイントは以下の通りです。
- 申請する事務所や倉庫などの販売場が実際に確保されていること(バーチャルオフィスや実態のない場所は不可)
- 既に酒類販売免許を取得している場所での、重複した免許ではないこと
輸出入酒類卸売業では、国内での店頭販売を行わない場合、店頭スペースの区分は必須要件ではありません。ただし、国内消費者向けの販売を行う場合は、国内販売の基準に従って販売スペースを区分する必要があります。
2.3 経営基礎要件
経営基礎要件では、輸出入酒類卸売業として事業を安定的に継続できる経営基盤があるかどうかが確認されます。主なチェックポイントは以下の通りです。
- 事業を継続できるだけの資金や設備を有していること、または取得予定であること(輸入の場合は仕入れ資金や倉庫・物流体制、輸出の場合は輸送管理体制など)
- 輸出入酒類卸売業を適正に運営するための知識・能力を有していること
- 過去数年の決算において、著しく財務状態が悪化していないこと(例:繰越損失の割合が過大でないこと)
2.4 需給調整要件
酒税法上、需給の均衡を保つ必要から、特定の販売業者に免許を付与することが適当でないと認められる場合は不許可となることがあります。特に、同一営業主体が飲食店と酒販店を兼業する場合などでは、販売部門との分離や区分が問題になることがあります。
3. 申請から交付までの流れと期間
- 事業計画の検討・整理(どの酒類を扱うか、販売見込み、仕入先など)
- 管轄税務署への事前相談(要件適合性の確認)
- 申請書類および添付資料の準備・作成
- 申請書類の提出
- 税務署による審査(標準処理期間は2か月。ただし補正対応で延びることあり)
- 免許通知書の交付・登録免許税の納付(9万円)
- 酒類取引開始・必要な届出・管理体制の構築
なお、書類不備や要件不適合があると差戻し・不許可になることがありますので、徹底した事前準備が必要です。
4. 必要書類と準備ポイント
- 酒類販売業免許申請書および添付資料(販売場・倉庫の状況、建物配置図、事業計画、収支予測 など)
- 誓約書
- 履歴書
- 資金関係の証明書
- 地方税の納税証明書
- 不動産関係の書類(土地・建物の登記事項証明書、賃貸借契約書、使用承諾書 など)
- 法人関連書類(定款、登記事項証明書、役員の履歴書)
- 財務書類(法人は直近数期分の決算書、個人事業主は確定申告書類)
5. 申請にあたって注意すべきポイント
- 事務所・倉庫が実在し、適切に管理されていること(バーチャルオフィスや実態のない場所は不可)
- 申請時の仕入れ・輸出入計画が現実的かつ根拠のある内容であること
- 添付書類の不備がないこと(契約書、図面、使用承諾書など)
- 税金滞納歴や過去の処分歴が要件に抵触していないこと
6. 免許交付後・運用上の注意点
- 申請内容に変更があった場合は、変更申請または届出が必要
- 輸出入取引実績・仕入実績は適切に記帳・帳簿保存する義務あり
- 蔵置所(倉庫)を別途設ける場合は蔵置所届出が必要になることがある
7. まとめ:まず押さえるべきポイント
輸出入酒類卸売業免許は、国内外の取引を円滑に行うための専門的な免許であり、申請や運用には準備が不可欠です。特に押さえておきたいポイントは以下の通りです。
- 申請にあたって、事務所や倉庫の実在性や管理体制が明確であること
- 輸入・輸出の取引計画や仕入れ数量、販売ルートに根拠を持たせること
- 添付書類や契約書、財務書類など、必要書類を漏れなく整えること
- 免許交付後も帳簿や関連書類の保存、変更届出など、運用ルールを守ること
これらを押さえておくことで、申請から免許取得、事業運営までスムーズに進めることが可能です。

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【ご挨拶】
行政書士の大谷賢司です。
ワインエキスパート・シードルアンバサダーとしての知識に加え、MBAで培った経営的視点から、酒販免許取得と開業をトータルで支援しています。
お酒業界で新たに事業を始める方に寄り添い、確実かつスムーズなスタートをお手伝いいたします。
| 事務所名 | みのり青山行政書士事務所 |
|---|---|
| 代表者 | 大谷 賢司 |
| 所属・会員・資格 | 東京都行政書士会渋谷支部理事 早稲田大学商学部、早稲田大学ビジネススクール(WBS)卒業 日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート 日本シードルマスター協会認定シードルアンバサダー |
| 所在地 | 東京都渋谷区道玄坂一丁目15番3号 プリメーラ道玄坂329 |

